“もったいない”を笑顔に変えるウェブメディアUPCYCLE TOKYOでは、幅広い分野の方々へのインタビューを通して、“もったいない”モノとヒトの新たな出会いや、持続可能な社会の実現に向けた革新的なアイディアが生まれるお手伝いがしたいと考えています。
今回は『光る』をテーマにした付加価値創造企業として、長年にわたり多種多様な箔を国内外に向けて提供する村田金箔グループの皆さんに、箔の素材特性や箔押しをする際に生じてしまう“もったいない”と感じるモノについてお話を伺いました。
◇お話を伺った方◇
村田金箔グループ東日本営業部 吉田則一さん
村田金箔グループPR・広報部/ステーショナリー事業部 原田瑠里さん
箔押しは印刷では表現できない
キラキラした質感を出せるのが最大の魅力
―まずは会社概要を聞かせてください。
原田さん:弊社は慶応元年から続いている会社で、まもなく創業160周年を迎えます。創業当時は箔押しという概念はなく、金箔や蒔絵の事業をおこなっていました。「光るにこだわり続ける」をコンセプトとして、純金箔から箔押しまで幅広く事業を展開しています。基本的には付加価値創造企業というところで、元々あるものに付加価値を足してより良いものに仕上げていくのが弊社のモットーになっております。
―箔押しは日本で発祥したのでしょうか?
吉田さん:今ある箔押しについてはヨーロッパ発祥の技術になりますね。金箔と箔押しは別物で、金箔に関しては日本で発展したものになります。
原田さん:金箔で言うと浅草に金箔屋卯兵衛という店舗を構えておりまして、金箔や箔の魅力を伝えることを目的に、金箔貼り体験を行ったり、金箔そふとをはじめとする金箔スイーツを販売したりと、箔のアンテナショップのような位置付けです。また、最近大阪にHAKU-TION(ハクション)という新しい空間をオープンさせました。箔を通じて様々なアクションを生んでいく箔の実験の場として、セミナーやワークショップ、イベントなどを行っていきたいと考えています。。箔棚という弊社が取り扱っている箔を並べているコーナーもあり、デザイナーさん、クリエイターさんだけでなく一般のお客様にも箔に親しんでいただけたら幸いです。
―そもそも箔押しとはどのような技術なのでしょうか?
原田さん:基本的には機械で熱と圧をかける特殊加工技術で、スタンプのような箔版を使って箔押しをします。簡単に言うと機械で紙などに箔を圧着させてキラキラさせる加工技術で、印刷では表現できない質感を出せるという部分が魅力ですね。弊社では企業向けの商材からウチハクというお家で箔押しが気軽に楽しめる文房具など、お客様のニーズに合わせて色々な箔商品を展開しています。
―箔そのものはどのような構造なのでしょうか?
吉田:箔の構造をご説明しますと、一番上の層がベースフィルム(ペットフィルム)で、転写されるのは離型層以下になります。離型層の下に色の層があるのですが、その着色する色の違いによって箔の色を変えています。さらにその下にメタリック感を出すための「金属」蒸着層があり、最下層には押す素材によって種類を変える接着層があります。
―環境負荷を軽減するための箔の技術開発を進めているそうですね。
原田さん:そうですね。現在ペットフィルムそのものを生分解性にするための開発を進めています。実験は成功しているので、導入に向けて準備中です。また、薄膜化に向けても動き始めていて、箔を通常の半分の厚さにすることによって、倍の長さで箔を巻くことができるようになります。そのため、時間短縮ができるほか、巻くためのエネルギー捻出量を減らせるので環境負荷の軽減にもつながります。
吉田さん:ただ、薄くすることで強度が減ってしまうので、そこの部分の調整を現在行っています。
企業活動とアップサイクルに貢献する
取組みを両立していきたい
―箔押しをしていて“もったいない”と感じるモノはありますか?
原田さん:機械で熱と圧をかけると紙に箔押しされて、離型層以下が転写し抜けた跡が透明に残るのですが、その周りの部分は再度使うことはありません。入稿する前にデータを調整して、極力箔の無駄が出ないようにはしていますが、抜いた後の周りの部分がどうしても残ってしまうのでもったいないと感じていました。転写箔自体をなくすことは難しいので、これを何かに活かせないか考えていた時にSHITSURAEさんに出会ったんです。
―どうにかして有効活用できないか模索していたのですね。
原田さん:環境への配慮が重要視される時代の流れを受けて、やれることから始めていかなければと考えていました。リサイクルではなくアップサイクルでぜひ有効活用できたら、と考えていたときにSHITSURAEさんのアクセサリーの素材に使っていただけることになりとても嬉しかったです。
―自社の箔が入ったアクセサリーを目にした際、どのような感想を持ちましたか?
吉田さん:ものすごく綺麗だったので、うまくいって良かったと感じましたね。とても目につくものになったと思います。
原田さん:箔の最大の魅力は印刷に負けないキラキラ感だと思うのですが、それが最大限生きていると感じました。ただ切って入れ込んでいるだけではなく、伸ばしたり練ったりして表情や奥行きを出しているとのことで、技術力の高さに感服です。箔をアップサイクルしていただけるのはすごいことだし、ありがたいなと思っています。
―アップサイクルという言葉は元々ご存じだったのですか?
原田さん:そうですね、数年前から知っていました。海外に行くのが好きなのですが、特にハワイなどに行くと海面上昇などに強い危機感を持っていて、環境問題への意識が高くて。リサイクルどころではなくて、アップサイクルしていかないといけないと多くの人が熱心に活動しているのがカルチャーショックでした。日本だとほとんど聞かない言葉だったのですが、私たちも企業活動とアップサイクルに貢献する取組みを両立していきたいと考えています。
吉田さん:私はSHITSURAEさんに出会うまでアップサイクルという言葉は知りませんでした。その後、ハワイには太平洋中のゴミが集まってくるというのを何かの記事で読みまして、それをアップサイクルしている人たちがいるということを学んで、すごいなと思いました。
明確なビジョンがあれば
自分たちにできるアップサイクルの取り組みも広がっていく
―今後の展開として「こんなアップサイクル製品を作りたい!」などのアイディアがありましたら教えてください。
吉田さん:企業のロゴなどを箔押しで入れることがあるのですが、先ほどもご説明しましたようにロゴの部分だけ透明に抜けて周りが残るので、抜けた後の箔をうまくアップサイクルしてノベルティグッズなどとして商品化できないかな、と考えています。タグでもキーホルダーでも良いのですが、ロゴって一番の企業アピールになりますからね。もちろんロゴを所有する企業さんの許可が必要にはなりますが、アップサイクルのストーリーが成り立っていれば広報宣伝にも使えるのではないかと思っています。
―なるほど、箔が抜けた後に綺麗に周りが残っていればそれもロゴとして使えるということですね。
吉田さん:「こういう箔押しをすると、さらにこういう商材も展開できます」みたいな一つの流れで提案できたら良いのではないかと構想しています。ただ、それには弊社サイドの仕組みも整える必要がありまして、最初から抜いた後の箔を別の用途に使うと決めておかないと箔が綺麗に残されないんですよね。良い状態で残しておければ、再び紙に押すこともできますし、何かに裏打ちすることもできるので可能性がかなり広がります。このように明確なビジョンがあれば、自分たちにできるアップサイクルの取り組みも広がっていくので、しっかりと企画を立てて進めていきたいと思います。
―貴重なお話、ありがとうございました!